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「させていただいております」は間違った敬語なのか
上記の文章を読んで、皆さんはどう感じますか。「そうなんだ、どれどれ」と好意的に受け止める方、「なんだか回りくどいな」と違和感を感じる方、「その言い方はおかしい」と不快感を覚える方、いろいろな方がいらっしゃるでしょう。
ビジネスシーンでは最近この「させていただきます・させていただいております」という表現が頻繁に使われるようになりました。しかし、広く使われている表現である「させていただく」は誤用ではないかという疑惑の声も上がっています。
ここでは「させていただいております」という表現を、その文法から使い方までをできるだけ細かく分析し、よりふさわしいシーンで効果的に使うための方法を考えていきます。
「させていただいいております」は文法としてどうか
「させる」は使役の助動詞、「いただく」は「もらう」の謙譲語、「いる」は謙譲語にした後に末尾を丁寧な言葉にしたものが「おります」になっていると言うことがわかります。このことから、「させていただいております」から敬語表現を取り払うと「させてもらっている」という言葉になります。
敬語を取り払っても日本語としてきちんと成り立っていると言うことが分かり、「させていただいております」は文法としてはどこも間違っていないと言うことになります。それだけではなく、敬語としても文法上は正しい表現でもあると言うことです。
それでも「誤用なのでは」という疑問が湧いてくる原因はどこにあるのでしょうか。
誰に向かって「させていただく」のか
たとえば、「言う」という動作を、社長が社員にするのを社員の立場から見れば「おっしゃる」、社員が社長に言うのなら「申し上げる」という具合です。
「させていただいております」は「させてもらっている」ということですから、何かを自分にさせている相手が存在していて「それをさせてもらっている自分」がそのことを誰かに表明している、というシチュエーションで使われます。
ややこしくなってしまいまいたが、このあと具体的な例を交えながら説明していきます。
誰に何を「させてもらう」のか
「先生、この度は退院させていただいて、ありがとうございます。」
「皆さんにご心配おかけしましたが、この度、退院させていただきました。」
上の文では、退院させてもらった人が退院させてくれた医師に直接お礼を言っています。許可してくれた医師に感謝して、謙譲語を用いて医師に敬意を払う表現として適切です。
一方下の文では、退院したことを周囲の人に報告しているのですが、退院させてくれた医師は聞き手に含まれていません。謙譲語を使って持ち上げるべき相手がそこにはいないのに謙譲語を使うと、誰に向かってへりくだっているのかハッキリしません。
このあたりに「させていただいております」の違和感の原因がありそうです。
「させていただいております」と言える場合とは
丁寧語であれば相手との関係性に関わらず幅広く使えます。しかし「させていただく」は謙譲語であると知っている人には、状況によってはふさわしくない表現だと感じられるでしょう。
「させていただいております」を正しく使うためには、ふさわしい場面を選ぶ必要性がありそうです。引き続き詳しくみていきましょう。
「させていただいております」は二重敬語なのか
「させていただく・させていただいております」自体は二重敬語ではありません。「させて」は使役、「いただく」が「もらう」の謙譲語ですから、文法的な間違いはありません。
しかし、すでに謙譲語である「拝見する」を「拝見させていただく」とするのは二重敬語にあたるとされています。「見せてもらう」のは「拝見します、拝見いたします」で十分な敬語表現です。
謙譲語だけでなく、尊敬語を重ねる二重敬語にも気をつけたいところです。余談ですが「お帰りになられる」は「お~になる」と「~られる」を二重に使った間違いです。「お帰りになる」が正しい敬語です。
「させていただく」のよくある使われ方とは
本日は休業させていただいております
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しかしながら、「お店が休みでガッカリ」という気持ちに加え、この表現によって怒りを感じる人もいることでしょう。理由は後述の「正しい使い方」で説明します。
担当させていただいております
単刀直入に「私が担当です」と言うこともできますが、「させていただいている」とすることで相手にやんわり許可を求めている印象を与えます。
実際に担当させてくれているのは勤務している会社であり、目の前の取引先やお客様ではないのですが、初対面の担当者を相手に「あなたが担当だなんて許しません」という人も少ないでしょうから、こういった表現が使われているのでしょう。
もしクレームが入った時に「私が担当させていただいておりますので」などと言うと、「許可した覚えはないぞ」と怒らせてしまう可能性もあるので注意しましょう。
お席の移動はご遠慮させていただいております
「させていただく」のは「させてもらう」という意味ですから、「遠慮させてもらう」のは言葉を発した人に他なりません。席の移動を希望するお客に対して、「(店側は)移動は遠慮させてもらっている」では意味が通りません。遠慮すべきなのはこの場合お客の方で、店側ではありません。
「させていただく」が謙譲語を離れて、単なる丁寧な言い回しとして使われている例だと言えるでしょう。
「させていただく」をよく使いがちな場面とは
「させていただく」とは、「基本的に相手の許可を得たうえで、それを行うこと」を意味します。自分がしてもらうこと(相手がしてくれること)で、自分が何かしら恩恵を受けるときに使うのが本来の使い方だとされています。例えば「体調が悪いので早退させていただきます(いただけますか)」という使い方です。
それがいつしか、「相手が望んでいることを進んでしてあげる」というニュアンスになり、「自分が行うことの丁寧な言い方」としても使われるようになったのでしょう。
CDを出させていただきました
しかしながら、CD発売に一般の人々やファンの許可は不要なので、「させていただく」という表現をする必要がありません。あるとすれば、CDを作るにあたって尽力してくれた人と直接話すときでしょう。
お断りさせていただいております
相手の意志に関わらず「あなたがどう思おうと絶対にお断りです」ということですから、ビジネスシーンにはあまりふさわしくはありません。むしろプライベートで「もう帰らせていただきます」など立腹を相手にわからせるシーンがふさわしいのでしょう。
「させていただいております」の正しい使い方とは
ビジネスの現場では「させていただく」「していただく」という表現も多いので、合わせて説明していきます。
何かをさせて欲しいとき(許可を求める)
・お申込書を郵送させていただきますので、ご記入の上ご返送ください。
・ご希望の方には、パンフレットを送らせていただいております。
書面を郵送「してもらう」のは相手なので混乱しがちですが、こちらの立場からは「相手に郵送させてもらう」行為なので、「郵送させていただく・送らせていただく」と使います。郵送することについて相手の許可が必要なことから、本来の意味に合った使い方と言えます。
前後の会話次第では、「郵送させていただいてもよろしいでしょうか」と問いかけの形にする方が自然な場合も多いです。「返送」はお客様がすることなので「返送させていただく」とは言いません。「返送していただけますか」とすることはできますが、同じ文の中で複数回「していただく・させていただく」を使うのは音声として少々くどい印象があります。
同意を得られていることに対して使う(許可・確認)
・明日には納品させていただきます。
・次回の会議で報告させていただきたいと存じます。
この場合、「納品いたします」「報告いたします」でも十分な敬語と言えるのですが、「させていただく」と表現するとよりこちらの低姿勢を印象付けることができるでしょう。
動詞との相性を考えて使う
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では「訴えさせていただきます」はどうでしょうか。誰も望んで訴えてほしいとは思わないでしょうから、許可があって初めて使える「させていただく」の用法とは異なってしまいます。敬語のもうひとつの側面である「意図的な慇懃無礼」な表現として受け取られかねません。
「破棄する」「断る」など、へりくだる態度と相容れない動詞に「させていただく」をつけると無礼な使い方になるので要注意です。
「~しております」の敬語ではない
その多くが誤用だとは決して言えませんが、「~しております」のより丁寧な表現として捉えられているケースは多いと言えます。そのため前述したような「お席の移動はご遠慮させていただいております」のような誤用が生まれやすいのでしょう。
「ご遠慮ください」「ご遠慮いただいています」が正しい使い方です。
「休業させていただいております」は失礼なのか
しかし本来は「相手の許可があって初めてできること」に対して「させていただく」と表現するため、「誰の許可を取って休業にしたのか」と感じてしまうのも無理はありません。
しかも敬語のはたらきとして、「相手との距離をとり他人行儀にすることで意図的に無礼にふるまう」という効果もあることから、「休業させていただいております」に不快感を覚えるという人もいるでしょう。
「させていただいております」と言い切る時には、それが自分勝手な行為ではないか、誰かに迷惑をかける可能性がないかを考える必要がありそうです。
多用・濫用に注意しましょう
せっかく敬意を表したくて敬語を使うのに、多用により「耳障り」になってしまってはもったいないです。同じ文章の中で何度も「させていただいております」を繰り返すと、相手もいちいち許可を求められているような気持ちになるので、耳障りに感じるのだと考えられます。
「いたします」も活用して、スッキリとした敬語にまとまるように気をつけましょう。
漢字ではどのように書くのか
「させて頂いております」は誤り
・おいしいごはんを頂く
・先生からお手紙を頂いた
一方、動詞に付属して使う補助動詞は文部科学省によって「ひらがなで書く」と定められています。ここまでずっとみてきた「させていただいております」の「いただく」は補助動詞なのでひらがなで書くのが適切です。
「戴く」は「頭にものをのせる」という意味があり、品物をもらったときなどに「贈り物を戴く」と書きます。
謙虚に「させていただいております」と心に留めて
しかしながら、言葉は時代や使われ方によって自在に変幻していくものでもあります。間違った使い方を恐れるあまり、円滑なコミュニケーションがとれなくなるのでは言葉そのものが役割を果たせません。
「させていただく」はとても謙虚で美しい言葉です。だからこそ好んで使われるようになっているのでしょう。謙虚な気持ちを大切にし、相手を思いやる優しい言葉ですから、使い方を工夫してコミュニケーションに取り入れていきましょう。