「させていただいております」の意味と使い方・漢字|二重敬語
更新日:2024年10月05日
「させていただいております」と言い切るのは、相手が快く承諾してくれることが予想される行動に限ったほうが無難です。報告して欲しいと思っている相手に対して「報告させていただく」のは全く問題ありません。
では「訴えさせていただきます」はどうでしょうか。誰も望んで訴えてほしいとは思わないでしょうから、許可があって初めて使える「させていただく」の用法とは異なってしまいます。敬語のもうひとつの側面である「意図的な慇懃無礼」な表現として受け取られかねません。
「破棄する」「断る」など、へりくだる態度と相容れない動詞に「させていただく」をつけると無礼な使い方になるので要注意です。
「~しております」の敬語ではない
ここまでで、「させていただいております」が実際に使えるシーンは思ったよりも少ないと感じられた方も多いのではないでしょうか。しかし、現実には会話や文章において「~させていただきます・させていただいております」という言葉はかなりの頻度で使われています。
その多くが誤用だとは決して言えませんが、「~しております」のより丁寧な表現として捉えられているケースは多いと言えます。そのため前述したような「お席の移動はご遠慮させていただいております」のような誤用が生まれやすいのでしょう。
「ご遠慮ください」「ご遠慮いただいています」が正しい使い方です。
「休業させていただいております」は失礼なのか
「本日は休業させていただいております」という表現も「本日は休業です」よりはずっと丁寧に聞こえます。
しかし本来は「相手の許可があって初めてできること」に対して「させていただく」と表現するため、「誰の許可を取って休業にしたのか」と感じてしまうのも無理はありません。
しかも敬語のはたらきとして、「相手との距離をとり他人行儀にすることで意図的に無礼にふるまう」という効果もあることから、「休業させていただいております」に不快感を覚えるという人もいるでしょう。
「させていただいております」と言い切る時には、それが自分勝手な行為ではないか、誰かに迷惑をかける可能性がないかを考える必要がありそうです。
多用・濫用に注意しましょう
「させていただく症候群」と呼ばれるように、「させていただいております」の多用を好ましくないとする風潮があります。謙譲表現「いたします」で十分なところを、それでは丁寧さに欠けると感じてしまうせいか、つい何度も「させていただいております」を使いたくなってしまうのでしょう。
せっかく敬意を表したくて敬語を使うのに、多用により「耳障り」になってしまってはもったいないです。同じ文章の中で何度も「させていただいております」を繰り返すと、相手もいちいち許可を求められているような気持ちになるので、耳障りに感じるのだと考えられます。
「いたします」も活用して、スッキリとした敬語にまとまるように気をつけましょう。
漢字ではどのように書くのか
「いただく」という漢字には「頂く」「戴く」がありますが、「させていただいております」を「させて頂いております」と書くことはできるのでしょうか。「いただく」を漢字で書くかひらがなで書くかには、実は明確な決まりがあります。
「させて頂いております」は誤り
「いただく」を本動詞(普通の動詞)として本来の意味で独立的に用いる場合は「頂く」と書きます。具体的には「食べる」「もらう」の謙譲語として「いただく」と書く場合です。
・おいしいごはんを頂く
・先生からお手紙を頂いた
一方、動詞に付属して使う補助動詞は文部科学省によって「ひらがなで書く」と定められています。ここまでずっとみてきた「させていただいております」の「いただく」は補助動詞なのでひらがなで書くのが適切です。
「戴く」は「頭にものをのせる」という意味があり、品物をもらったときなどに「贈り物を戴く」と書きます。
謙虚に「させていただいております」と心に留めて
「させていただいております」という敬語表現について考えてきました。厳密には正しく使えるシーンが限定された表現であることがわかり、驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。使い方や状況によっては違和感を与えたり、誤用してしまう場合があるということも明らかになりました。
しかしながら、言葉は時代や使われ方によって自在に変幻していくものでもあります。間違った使い方を恐れるあまり、円滑なコミュニケーションがとれなくなるのでは言葉そのものが役割を果たせません。
「させていただく」はとても謙虚で美しい言葉です。だからこそ好んで使われるようになっているのでしょう。謙虚な気持ちを大切にし、相手を思いやる優しい言葉ですから、使い方を工夫してコミュニケーションに取り入れていきましょう。
初回公開日:2018年05月26日
記載されている内容は2018年05月26日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。