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「時よ止まれ汝は美しい」の意味は?あらすじと背景から紐解いていこう

更新日:2024年04月15日

「時よ止まれ汝は美しい」は、文豪ゲーテの戯曲『ファウスト』のなかに出てきます。よく聞かれる一節ですが、どのような意味内容なのかご存じですか?本記事では物語のあらすじや背景からその意味を紐解きます。「時よ止まれ汝は美しい」について知りたい方は参考にしてください。

「時よ止まれ汝は美しい」という一節は、ドイツを代表する文豪・ゲーテの戯曲『ファウスト』のなかに出てくるセリフとして有名です。本作品を読んだことがない人でも、どこかで「時よ止まれ汝は美しい」という言葉を聞いた覚えのある方もいるのではないでしょうか?

ここでは、物語のあらすじや背景をふまえつつ、その一節の意味を詳しく紐解いていきます。

この記事を読むことで、主人公がどのような状況で、なぜこの言葉を発したのかを理解できるでしょう。さらに掘り下げて解釈することで、作品の示しているこのセリフの本当の意味についても知ることにつながります。

ぜひ「時よ止まれ汝は美しい」についてもっと学びたいという方はチェックしてみてください。

「時よ止まれ汝は美しい」の意味とは

ドイツの文豪ゲーテの代表作である「ファウスト」とは、本作の主人公である老博士の名前でもあります。この「時よ止まれ汝は美しい」は、ファウストが、もし人生のすべてを享受するような満ち足りた瞬間が自分に訪れるなら、このセリフを口にして悪魔に魂を差しだそうと約束する、重要な言葉です。

また物語のエンディングで、死を目の前に盲目のファウストが、勘違いとはいえ人々の幸せのために貢献できたと喜びを感じたときに、ようやくこのセリフを口にして最期を全うするというものです。

『ファウスト』という作品タイトルだけは聞いたことがあっても、内容を知らない方も多いでしょう。ここでは、ファウストのあらすじから「時よ止まれ汝は美しい」がどのような意味で口に出たセリフなのかをより詳しく解説していきます。

元となったのはゲーテの「ファウスト」

「時よ止まれ汝は美しい」という言葉は、ドイツの文豪ゲーテが書いた『ファウスト』という長編戯曲のなかに出てくる名ゼリフです。本作品は2部構成となる作品で、ゲーテが20代から死の直前まで執筆していた大作です。

日本では明治後期に、森鴎外が最初に『ファウスト』を完訳し、それ以降も多くの翻訳者たちによって日本語に訳されています。また漫画家の手塚治虫氏も設定は大きく変更しているものの、子供でも分かりやすい作品としてファウストを漫画にしています。

本作はいわゆる普通の小説ではなく、もとは劇を上演するための台本形式で書かれたものでした。近年でも『ファウスト』からインスパイアされた作品が出回っており、世界中で映画やオペラ、小説、演劇、ゲームなど様々なジャンルで形を変えながらも今も語り継がれている作品です。

実際に原作の内容を知らなくても、「時よ止まれ汝は美しい」というフレーズをどこかで耳にしたことがあるのは、そんな理由があるのかもしれません。

「時よ」が意味するもの

これまで学問を究めてきた高名な学者であるファウストは、人生の大半を学問への習得に費やしたのにも関わらず、人生の充実感は得られず生きる意味を失います。

そんな人生に絶望したファウストに忍び寄るのが、悪魔メフィストフェレスです。

ファウストの死後の魂をもらう代わりに、悪魔の力を駆使し、現世でのあらゆる欲望や快楽を与えてやろうとうまい話を持ちかけます。この誘いに乗ったファウストは、「時よ止まれ汝は美しい」と口にしたときに、悪魔に自分の魂を与えようと契約を交わすのです。

このことから「時よ止まれ汝は美しい」の「時よ」とは、ファウストにとって本当に生きた証しというべき最高に幸せな瞬間という意味に捉えられるでしょう。

さらに「時」に「よ」を付け足すことにより、まるで人間のように呼びかけることで、いっそうその「時」が生き生きとした印象で表現されています。

「汝」が意味するもの

汝(なんじ)は、あなたや君といった意味を持つ二人称の人代名詞です。親しい相手や同輩、またはそれ以下の人間に対して用いられる言葉ですが、現代では使われない古語に属します。古い文献でよく見られ、聖書などではたびたび「汝」と訳される場合が多いです。

一方で「時よ止まれ汝は美しい」にある「汝」とは、先頭にある「時よ」と同じく、ファウストの人生に訪れる最高の瞬間、またその時間の流れを指しています。あえて二人称にすることで、あたかも人間のように見立てて語りかけているのです。

これは人間以外のものを人間に例えて用いる擬人法です。より印象的にインパクトを与える効果があるため、汝と表現することで、人間味ある満ち足りた時間というイメージを持たれやすくなります。

それと同時に、ファウストにとって、自分が生まれてきて本当に良かったと感じる「人生最高の時間」に親しみを込めて「汝」と呼びかけたい心境も伺えるでしょう。

原文には「時よ」という言葉はないって本当?

「時よ止まれ汝は美しい」という一節は、「Verweile doch! du bist so schon!」というドイツ語の原文に当たると言われています。

実はこの原文をそのまま日本語に直訳すると「とどまれ!お前は実に美しい!」という意味となります。

すでにお気づきかもしれませんが、前出のドイツ語原文には「時よ止まれ汝は美しい」の「時よ」という言葉が記されていないのです。

これはその前の文章「Werd’ ich zum Augenblicke sagen:」まで目を向けると理解しやすいです。直訳すると「私がある瞬間に向かってこう言うだろう」といった意味になります。

つまりこれらの二か所の原文をまとめると、「私がある瞬間(Augenblicke)に向かって『とどまれ!お前は実に美しい』と言うだろう」という趣旨となり、「時よ止まれ汝は美しい」という最終形で翻訳されていることが分かります。

「時よ止まれ汝は美しい」が出てくるのはどんな場面?

戯曲『ファウスト』のなかで「時よ止まれ汝は美しい」が出てくるシーンは2つあります。

最初のシーンは第1部です。悪魔メフィストフェレスの甘い誘いに乗って、ファウストは自分の魂と引き換えに人生最高の瞬間を求めて、悪魔の力を借りて契約する場面です。

そして次のシーンが第2部の終盤です。メフィストフェレスが子分の悪魔たちにファウストの墓穴を掘らせているところを、盲目のファウストが勘違いします。

自ら関わった干拓事業で多くの人民が土地を切り開く希望と幸せの音だと聞き誤り、思わず口に出してしまう場面です。

「時よ止まれ汝は美しい」を巡るシーンでは、自分の魂と引き換えに悪魔と契約までしたファウストが、勘違いとはいえファウスト自身が心から「これが人生最高の瞬間だ」と感じこの言葉を言って最期を迎えたのです。

物語の背景をふまえながら、2つの場面をもっと詳しく見ていきましょう。

悪魔メフィストフェレスの登場と契約

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初回公開日:2022年07月07日

記載されている内容は2022年07月07日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
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