「呷る」の意味と使い方・「煽る」との違い・類語・例文・読み方
更新日:2024年10月23日
お酒以外を「呷る」
・先輩は、私の差し出したスポーツドリンクを遠慮なく呷る。
ぐびぐびと飲む先輩の姿がイメージできます。
・先を急かす彼女を宥めながら、俺はグラスの水を呷った。
急いでいる表現にも、「呷る」は使いやすい言葉です。
・師は私を前に「もうこれで思い残すことはない」と頷いたあと、毒を呷った。
辞書では酒と共に、毒が挙げられていることがあります。
・その子は背を向けて、慌てた様子で缶ジュースを呷り始めた。
取られないよう、慌てて飲んでいる様子が伝わります。
・畑仕事を終えた爺さんは、汗を拭いながら俺の作った薬草茶を呷る。
乾いた喉を潤す表現にも、「飲む」より勢いが加わるので表現です。
・「早く起きないからでしょ」と言う母親を横目に、俺は冷めた味噌汁を呷った。
詳細を書かなくても、遅刻しそうで急いでいる情景が伝わります。
お酒と「呷る」は相性がいい
「呷る」と言えば「酒」。真っ先に挙げられるほどお酒と相性のいい動詞です。お酒以外の飲み物でも、勢いのある描写に適しています。「勢いよく飲んだ」を「呷る」に書き換えるだけで、文章が引き締まることもあります。
文章での「呷る」の上手な使い方
例文の二つ目の「呷る」を「勢いよく飲んだ」にしたらどうでしょう。
・妻は猪口になみなみと注いだ日本酒を呷ぎ、おかわりちょうだい、と次をねだった。
・妻は猪口になみなみと注いだ日本酒を勢いよく飲んで、おかわりちょうだい、と次をねだった。
このように少し冗長になります。また、最初の文章では奥さんの性格も掴めそうですが、あとの文章ではぼやけています。
また、「呷る」という言葉自体の持つ印象や力もあります。例文の一つ目は短い文章ですが、「呷る」と「勢いよく飲んだ」を入れ替えてみます。
・「もう無理なんだよ」と課長は言って、手元のビールを呷った。
・「もう無理なんだよ」と課長は言って、手元のビールを勢いよく飲んだ。
両者を比べると随分印象が違います。「もう無理だ」とやさぐれた課長の様子を表すには、「呷る」の方が伝わります。
「呷る」で文章の印象が変わってしまうこともある
「飲む」は良くも悪くもないフラットな印象の動詞ですが、「呷る」は少し暗い、やさぐれた印象を与えることがあります。使い方によっては、文章の印象を大きく変えてしまうので注意が必要です。
例を挙げましょう。
・「そうね。これからの私達のこと、ちゃんと話しましょ」と妻は言い、誕生日のワインを飲んだ。
・「そうね。これからの私達のこと、ちゃんと話しましょ」と妻は言い、誕生日のワインを呷った。
前者だと、妻は誕生日のワインを手に明るい将来を夢見ているようにも捉えられますが、後者はどうでしょうか。「飲む」を「呷る」に変えただけで、なんとなく不穏な、夫婦で過ごす最後の誕生日のような印象になってしまいます。前後の文章がないので少々強引ではありますが、明るい場面の描写に「呷る」を使う場合は注意が必要です。明るい方向へ補正する表現がない場合には、「呷る」は使わないようにしましょう。
会話で使う時にも注意が必要
会話でも、「酒を呷る」「ビールを呷る」などは日常会話でも使いやすい表現です。ただ、「酒を呷る」と聞くと「ヤケ酒」のように感じて、自分がそう表現されることを快く思わない方もいらっしゃいます。
また、「あの人、昨日は酒を呷ってたよ」と「あの人、昨日は酒を飲んでたよ」だと、「大丈夫だろうか、何かあったのかな」と思わせてしまうのは前者の方です。メールでも「昨日、何してた」の返事が「お酒を呷ってた」だと心配される可能性があるので、誤解されたくない場合には違う表現を用いた方が無難です。「お酒」と「呷る」は相性のいい組み合わせですが、使い方によっては違う捉え方をされてしまうこともあります。
「呷る」という行為そのものを好ましく思わない方もいらっしゃいますので、注意が必要です。
使うのは仲間内が無難
「あいつ、どこ行った」「ああ、あっちでビール呷ってるよ」のやり取りは、皮肉や冗談が通じる気心の知れた仲間内なら問題ありません。
ただ、目上の方、あまり親しくない方には使わない方が無難です。たとえ社長や取引先の部長が呷るところを見掛けてしまっても、会話では使わないようにしましょう。
「社長、どこにいらっしゃった」と尋ねられたら「向こうでシャンパンをお飲みになってました」が、「取引先の〇〇さんは」の場合は「あちらでシャンパンを召し上がってます」が無難です。「呷っていらっしゃいました」は語尾を丁寧にしても敬語にはなりませんので、使ってはいけません。
まずは呷ってみよう!
今回は「呷る」について意味や使い方、「煽る」との違いについてご説明しました。基本的なことを押さえれば、「呷る」も「煽る」も難しい言葉ではありません。文章に使って自分の文章が変わるのを愉しむもよし、友達との会話で使ってみるもよし。どんな言葉でも同じですが、使わない限りは慣れません。使い続けるうちに使いどころが見えてきますから、大丈夫です。
覚えるコツは「呷る」は「口」で、「煽る」は「扇」。肩の力を抜いて、まずは一本、缶コーヒーでも呷ってみましょう。
初回公開日:2018年04月17日
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