「雨ニモマケズ」の意味とは?宮沢賢治が詩に込めた思いを解説
更新日:2024年10月09日
賢治がこの詩を書いたのは1931年の11月3日とされています。この日は、明治天皇の誕生日であり、明治時代に小学生・中学生だった賢治が「雨ニモマケズ」をこの日に記したのは意図するところがあったとするなど、作品にはさまざまな見解があります。
もともと「雨ニモマケズ」という文章は、遺品の手帳の中に記されていたもので、作品として書かれたものではありません。遺作を整理していた高村光太郎と賢治の弟の清六が賢治の一面を表した良い文章だからと作品化することに決めたのです。
この詩に賢治がどのような思いを込めたのか、その意味と解釈を解説していきます。
詩と法華経との繋がり
宮沢賢治は、18歳のとき法華経に感銘を受け、以後熱心な法華経信徒でした。「雨ニモマケズ」は法華経の祈りを描いたものといわれます。
詩は「雨ニモマケズ/風ニモマケズ」で始まり、最後は手帳の右側に「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」という願望で結び、左側に南無無邊行菩薩/南無上行菩薩/南無多宝如來/南無妙法蓮華経/南無釈迦牟尼佛/南無浄行菩薩/南無安立行菩薩とあります。
このお経のようなものは、簡略化した法華経の十界曼荼羅(じっかいまんだら)で、この部分が作品に含まれるかには賛否あり、書いた本人でないと意味はわかりません。
しかし詩には、人のために労を惜しまず行動し、それを評価されずデクノボー(木偶の坊)と呼ばれても構わないという法華経の教えに繋がる賢治の理想の人物像が描かれています。
「ヒドリ」と「ヒデリ」はどちらが正しい?
この詩の中に「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」という箇所があり、この「ヒドリ」についてはいくつかの説があります。「日照り」を誤って書いたもの、「日雇いかせぎ」を意味するもの、「一人」が訛ったものという解釈です。
もともと、手帳には「ヒドリ」と書いてありますが、弟の清六が高村光太郎らと編集するときに「ヒデリ」と改訂し発表しました。
のちに「ヒドリ」とは岩手県の一部の方言で「日雇いかせぎ」を意味するという説などが出ましたが、弟である清六も「ヒドリ」という言葉の意味を知らず、また他の部分には方言が入っていないため、編集時に前後を考えて「日照り」としたといいます。
現在は、この「ヒドリ」の解釈については「日照り」という意味で落ち着いています。
「玄米四合」の意味
賢治は詩の中で「一日ニ玄米四合ト/味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と書いていますが、一日に玄米を四合食べるというのは多いと考える人もいるでしょう。なぜ、四合という数字が出てきたのでしょうか。
これには、軍医でもある森鴎外の論文「日本兵食論大意」に起因すると言われます。鴎外の論文は、丈夫な体の日本人が1日に食べる米の平均量が四合だという調査結果を紹介しています。賢治はこれを踏まえ、四合という量を記したのでしょう。
また、白米でなく玄米なのは、母親の実家の勧めで賢治は療養のために玄米を食べていたことに関係します。しかし、病床にあった賢治の体に玄米は合わず、ずっとお腹を壊していました。玄米四合は、これを食べられる丈夫な体を持つことを意味し、賢治の切なる願いを表しています。
病弱だった宮沢賢治が詩に込めた願望
「雨ニモマケズ」は作品ではなく、賢治が亡くなる約2年前の体が弱っている時期に自分自身に向けて書いたものだとされます。文章の中の「東ニ病気ノコドモアレバ/行ッテ看病シテヤリ」以降の後半部分は賢治の思いが込められた特に大事な部分です。
賢治の願いは、あちこちに行って法華経の教えを実践するということですが、もともと病弱で無理がたたり、病床にいる自分にはそれが叶いません。「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」という結びの言葉には、賢治の強い祈りの気持ちが込められているのです。
「雨ニモマケズ」のモデルとなった人物
「雨ニモマケズ」には、モデルとなった人物がいると言われます。賢治より18歳年上で内村鑑三という有名なクリスチャンの弟子であった斉藤宗次郎です。
岩手県花巻生まれの彼は教師をしていましたが、内村鑑三の影響を受けて熱心なクリスチャンになります。クリスチャンとなったことで彼の人生は大きく変わり、宗次郎は町の人々から迫害されます。
教師の職を失った宗次郎は新聞配達を始め、子供に会うと飴玉を与え、仕事の合間に病気の人の看病をし、祈りを捧げる日々を送りました。賢治は教師の職にある時に宗次郎と親交を深めたとされます。
年齢や宗教は違っても熱心な信仰心と奉仕の心という共通意識から、賢治は宗次郎に尊敬の念を抱き、2人は気が合ったのでしょう。「雨ニモマケズ」を記した時に宗次郎の姿が頭の片隅になかったとは言い切れません。
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初回公開日:2022年07月22日
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