【業界研究】医薬品業界の現状・動向・課題について
過去10年の推移をみると、医薬品業界には薬価改定があった年はマイナス成長し、なければプラス成長するという法則があったことがわかります。近年はさまざまな要因が絡むようになり、その構図も崩れてきていますが、そういった法則があったのは医薬品業界の構造が内需中心となっているからです。内需中心で、伸び率がGDPに連動することはないため、薬価改定や医療制度改革に強い影響を受けるのです。
業界の課題
ハイリスク・ハイリターン
医薬品産業は大別すると化学産業に属しますが、化学メーカーが基礎化学品、誘導品、最終製品といった流れで製品を大量生産するのに対して、医薬品メーカーは最終製品のみを少量生産します。そして、作り出した製品がヒットすれば、世界中が市場となり、高収益がもたらされるという仕組みになっています。
しかし、そのリスクが群を抜いて大きいことも忘れてはなりません。
まず、画期的な新薬を開発できるかどうかが未知数であり、莫大な費用と時間がかかります。開発の成功率は1万分の1とも言われています。次に、そういったプロセスをクリアできたとしても、副作用が発見されて販売中止になったり、訴訟問題になったりすることがあります。問題が起きれば企業そのものがなくなる可能性もあり、そういった危険性と常に隣り合わせの厳しい世界なのです。
生命に関わることの難しさ
医薬品業界はハイリスク・ハイリターンであること以外にも、さらに大きな特徴を抱えています。
それは、他業界とは比べられないくらい社会に対する責任を背負っているということです。1960年半ばから、アンプルかぜ薬事件やスモン事件などの薬害事件が相次ぎました。近年では、ソリブジン事件や薬害エイズ問題などが発生し、開発企業は存続不能にまで陥っています。
作り出す製品が生命に関係するがゆえに、社会からの期待は大きくなり、その反動で、安全性や品質などの面での評価は厳しくなります。医薬品業界は、そういった重い使命を背負いながら、開発を続けていかなくてはならないのです。
業界の今後の将来性
日本が再発医療を主導できるか
政府は医療を成長戦略分野の1つと位置づけて法整備を進めています。2013年には、「再生医療推進法」を可決しました。
これは、安全性と有効性の両方を確認してから承認するという従来の医薬品の承認方法とは異なり、再生医療品に限り「仮承認」の制度を導入して、早期承認の道を開くというものです。安全性が認められ、有用性が推定された時点から7年間は再生医療品を販売でき、このあいだに有用性が確認できればその後も販売が可能となります。
日本の再生医療の市場規模は2012年に90億円でしたが、早期承認が認められたことで、企業の新規参入や新規開発が増えると予想されています。経済産業省は、2030年に1兆円、2050年に2.5兆円と見積もっていますが、医薬品業界が再生医療という分野において世界をどこまでリードすることができるかに大きな注目が集まっています。
業界研究本
日本経済新聞社の記者が徹底取材をして、日本の180業界の最新動向や課題、将来の見通しを解説しています。企業間の相関図、企業・製品のシェア、業界のトレンドを示す表やグラフがビジュアライズされており、業界のことが一目でわかるようになっています。業界研究をするにはまず目を通しておきたい1冊です。
国内の全上場企業の業績予想を中心に、所在地から財務情報まで、会社のことを知るのに欠かせない情報をまとめたハンドブックです。就職活動における業界研究から、株式投資といったビジネスユースに至るまで幅広く使えるのがの理由です。
産学社「産業と会社研究シリーズ」の「医薬品編」になります。たくさんの企業が参入していることもあって、医薬品業界の構造はわかりづらいものとなっていますが、本書ではたくさんの企業を紹介しながらも業界としての全体像がイメージできるように編集されていますので、業界研究の入門書として最適の1冊と言えるでしょう。