「一陣の風」の言葉の正しい使い方・類語・例文・歌詞・俳句
更新日:2024年11月12日
引用元の「青空文庫」では、著作権の消滅した多数の文学作品を一般公開しています。もちろん、芥川小説も読むことができますので、これを機にぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
泉鏡花 「光籃」
明治から昭和にかけて活躍した泉鏡花も、作品の中で、「一陣の風」という表現を使っています。下記はその一節ですが、「一陣の風」という言葉を使うことで、急に異変が起こった様子を描写しています。
川は三みっつの瀬を一つに、どんよりと落合おちあつて、八葉潟やつばがたの波は、なだらかながら、八やっつに打つ……星の洲すを埋うずんだ銀河が流れて漂渺ひょうびょうたる月界に入いらんとする、恰あたかも潟かたへ出口の処ところで、その一陣の風に、曇ると見る間まに、群むらがりかさなる黒雲くろくもは、さながら裾すそのなき滝の虚空こくうに漲みなぎるかと怪あやしまれ、暗雲あんうん忽たちまち陰惨として、灰に血を交まぜた雨が飛んだ。
出典: http://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/48404_35157.html |
坂口安吾 「朴水の婚礼」
下記の引用の中では、「一陣の風」という言葉が「一番乗り」「先駆け」というニュアンスで使われています。
「風になる」という表現が、より強い印象を受け手に与えています。
「俺は人生の修業はきらひだ。焼芋とヴァレリイの組合せが人生なら、俺は首をくゝつて別の国へ逃げて行かあ。そもそも汝富永秋水は保坂三平を何者と考へるか。余はもと混沌を母とし、風に吹かれて中空をとぶ十粒の塵埃を精霊として生れた博士であるぞよ。書を読めば万事につけて中道を失ひ駄法螺だぼらを生涯の衣裳となし、剣を持てば騎士となつておみなごのために戦ふけれども連戦連敗、わが恋の報はれたるためしはない。されば余は常にカラ/\と哄笑し、事あるたびに壁となつたり※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)の卵となつて身を隠したり、痩せても枯れても焼芋とヴァレリイのカクテルから小僧のニキビを生みだすやうな下品な手品は嫌ひなんだ。エイ、者共、余につゞけ。嵐が近づいて来たぞよ。余は自ら一陣の風となつて宇宙と共に戦ふであらう。小僧よ。鐘を鳴らせ。貝を吹け。戦へ、戦へ」
出典: http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42889_24799.html |
「一陣の風」が使われた俳句
俳句では、短い文字数の中でどれだけ情景を描写できるのかということが重要視されます。「一陣の風」は、17文字という少ない文字数から5文字を使ってしまう上に、季語ではないので、実は俳句においては、頻繁に使われている言葉というわけではありません。しかし、勢いや清々しさを感じさせてくれる表現として、この言葉は愛されています。
一陣の風に万緑動きけり
出典: http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/haiku/42321035102.htm |
上記の俳句は三重県の公募に入賞した作品です。「万緑」は夏の季語です。瑞々しい緑が夏の爽やかな風にそよぐ様子をよく表している、素晴らしい俳句です。
「一陣の風」に代わる俳句表現
季語として使うことのできる「風」の表現をご紹介します。
春
・春颯(はるはやて)
・春嵐(はるあらし)
・春一番(はるいちばん)
夏
・麦嵐(むぎあらし)
・山瀬風(やませ)
秋
初回公開日:2017年11月27日
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