【業界研究】繊維業界の現状・動向・課題について
経済産業省「工業統計表」によると、2014年の製造品出荷額等は前年比1.4%増の3兆8,223億円で、増加傾向にあります。しかし、1991年のピーク時の数字が12兆8,500億円であったことを考えれば出荷額は大幅に減少しており、繊維業界は依然として苦しい環境下にあります。
少子高齢化や人口の減少にともなう国内市場の縮小、中国や東南アジアからの安価な衣料品の大量輸入が主な原因と考えられますが、近年では、2008年のリーマンショックと2011年の東日本大地震の影響が大きく、未だそのダメージから回復できていないというのが現状です。
業界の課題
国内の衣料向け繊維は厳しい状況
衣料向け繊維の状況が苦しいものとなっています。
世界の繊維需要は新興国の人口増加と経済成長の影響でその数字を伸ばし、とくにポリエステルの生産を中心に拡大していますが、国内の衣料向け繊維は消費増税後の買い控えなどを受けて伸び悩んでいるのが現状です。
また、衣料向け繊維を扱う国内工場においても、最新の設備を導入して効率化を目指している大規模工場から、小規模の昔ながらの家内工場まで存在していますが、国内の衣料向け繊維の縮小は、とくに小さな家内工場の経営を苦しいものにしています。
さらに加速する技術革新のスピード
近年において、繊維業界が積極的に取り組んでいるのがウェアラブル端末向け素材の開発です。
心拍数などの生体情報を計測できる素材や、曲げる、ひねるといった生地の動きを計測できる素材が登場しており、各社はスポーツ、ユニフォーム、介護、医療といった分野での事業化を進めています。
ただ、こうした高機能製品に関しては、人々の生活様式を変えうる可能性を持ったものとしての期待が高まっていることは事実ですが、衣料関係と比べても市場の変化が早く、技術革新のスピードも早くなっています。
このため、製品開発において、さらに高度なマーケティングや技術が要求されるのは当然であり、開発への注力やコスト削減といった経営判断がより一層求められる状況になっています。
業界の今後の将来性
新素材を開発して、製品の競争力を高めること
日本化学繊維協会の「繊維ハンドブック2015」によると、化学繊維の2012年の全世界生産量のうち日本の生産量はわずか1.1%となっており、今後もこの数字は変わることはないと予想されています。
化学繊維生産の主役となるのは、これからも中国、インド、台湾、インドネシア、韓国といった繊維的新興国であり、そういった新興国と価格競争で戦っていくのは日本にとっても得策とは言えません。
化学繊維の分野において、日本が世界をリードしてきたのは新合織(しんごうせん)と呼ばれるポリエステルをベースとした新素材でありました。近年ではアパレルメーカーと繊維大手メーカーが共同開発した保温機能に優れたTシャツが世界的にヒットし、日本の繊維メーカーの技術力の高さを改めて証明する形となっています。
つまり、付加価値の高い新素材を開発して、製品の競争力を高めることが繊維業界の生き残りには必須であり、化学繊維だけでなく、これから開発される新素材が環境問題、省資源、省エネルギーといった諸問題をクリアして、産業資材や先端材料といった分野で成長できるかどうかが大きな鍵となっているのです。
業界研究本
日本経済新聞社の記者が徹底取材をして、日本の180業界の最新動向や課題、将来の見通しを解説しています。企業間の相関図、企業・製品のシェア、業界のトレンドを示す表やグラフがビジュアライズされており、業界のことが一目でわかるようになっています。業界研究をするにはまず目を通しておきたい1冊です。