賃金台帳と給与明細の違い|自社作成と専門家依頼はどっちがいい?
更新日:2020年08月28日
賃金台帳と給与明細の違い・自社作成と専門家への依頼はどっちがいい?
どこかの会社に所属して働いている以上、ほとんどの方が給与明細をもらったことがあると思います。この給与明細と、賃金台帳と呼ばれる、支給される給与についての情報が詰まっている台帳について、どのような違いがあり、どういった場面で利用するものなのか、見ていきましょう。
給与明細とは
給与明細とは、言葉通り、給与の明細書です。
大きく次の4点について記載されています。
・勤怠に関する情報…勤務時間、出勤日数、遅刻や欠勤回数など
・支給に関する情報…支給総額、夜間割増額、残業代、有給休暇手当など
・控除に関する情報…所得税、各種保険料、その他会社で定められたものなど
・その他…年末調整や還付金など
これらが記載されており、最終的に給与として支給される金額が載っているものが給与明細です。
最近では紙媒体では無く、電子媒体での配布が普及しており、自分でインターネットに接続して見るところもあります。
余談ですが、給与明細の発行は会社の義務ではありません。労働基準法上、発行しなければならない、とはされていないからです。
但し、所得税法、健康保険や厚生年金に関する法律上は定めがあります。
賃金台帳とは
賃金台帳とは、法律上、事業所に設置が義務付けられている帳簿の1つです。義務付けられている法定帳簿は3つあり、それらのことを法定3帳簿と呼称します。(労働基準法に定めがあります)
・労働者名簿…労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項が記載されているもの
・賃金台帳…賃金計算の基礎となる事項、賃金の額、その他厚生労働省令で定める事項が賃金支払の都度記入されていくもの
・出勤簿…労働日数、時間数、時間外・休日・深夜労働を行なった時間数等が記載されており、確認できるもの
上記3点は、例えば労働基準監督署が査察に入る時等に確認する書類となっており、原則各事業所に設置が義務付けられた帳簿です。要請があった場合にはいつでも提出できるようにしておく必要があります。
ただ、すぐに開示できる場合には電子媒体への保存も認められています。これには、また別の法律が関係します。
電子媒体への保存方法としてe-文書省令にその記載がありますが、まとめるとExcelやWordを使用しての作成及び保存、あるいはスキャナーなどで紙媒体と取り込んで保存する方法が認められています。
賃金台帳と給与明細の違い
給与明細は賃金台帳とは違います。基本的な給与明細を賃金台帳として使用することはできません。給与明細も、賃金台帳も、そもそもの作成する目的が異なるためです。給与明細は従業員が給与の明細を確認するためのもの、賃金台帳は法律で定められた事業所の義務によって作成されるものです。
大きな違いは、賃金台帳には、帳簿として必要な要点が含まれており、一般的に発行される給与明細にはそれらが無い点でしょう。逆説として、帳簿として必要要点を満たせば、給与明細を賃金台帳として使用することもできる、と捉えられます。この帳簿として必要な要点については事項で説明していきます。
給与明細を賃金台帳として使用できる?
給与明細を賃金台帳として使用できない、と先ほどお伝えしましたが、正しくは、全く使用できないわけでもありません。一般に給与明細と呼ばれるものは、法定の要件を満たしていないために賃金台帳として使用できない、ということになります。よって、給与明細を賃金台帳としても利用するためには、次の要点を網羅している必要があります。
・氏名
・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・時間外、休日、深夜労働時間数
・基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
・賃金の一部を控除した場合は、その額
以上の要点を給与明細に加えることで、賃金台帳としての要件を満たすことになります。
とは言っても、管理の都合上、また賃金台帳は社会保険や雇用保険の手続きにおいて提示を求められることから、両者は別物としておいたほうがなにかと都合が良いかもしれません。
注意点として
賃金台帳の注意点としては、作成と保存が義務化されていることです。正社員、アルバイト含め給与を支給するすべての従業員のものを「各事業所毎」「賃金を支払う(給与支給日)毎」に作成する必要があります。ちなみに、保存義務期間は3年となっています。
作成、保存について、それらを怠ったり、不備があった場合は労働基準監督署から指導、あるいは罰則が科されることもあります。
給与明細を賃金台帳として使う場合は、給与明細に賃金台帳として必要となる要点がすべて含まれている必要があります。賃金台帳としての要件を満たしていなかった、ということはあってはいけませんので、もしそのような使用を想定している場合は特に注意が必要です。
ただ、同じことの繰り返しになりますが、賃金台帳は社会保険関係、雇用保険関係の手続きにおいて提示を求められることがあり、また労働基準監督署が査察に入る場合も賃金台帳の提示を求められることから、給与明細と賃金台帳は別で用意、管理、保存していくほうがなにかと都合が良いので、給与明細を賃金台帳として使用することに強く賛成、お勧めはしません。
作成方法を検討する
給与明細と賃金台帳について、どのように作成したら良いでしょうか。具体的には、自社作成もしくは専門家へ委託する、となるでしょう。
それぞれ、どのようなメリット・デメリットがあるか、まとめてみました。
自社作成する場合は…
今の時代、ネット検索をかければ給与明細、賃金台帳どちらも多くのテンプレートがあり、無料のフリーソフトも手に入ります。また予算に余裕があれば、有料ソフトの購入を検討しても良いでしょう。多少割高ではありますが、無料で済ませることもできます。
またネット上では、給与明細や賃金台帳の作成に関する情報も手に入りますし、書籍も多くあります。少しの手間暇で自社作成できるので、ハードルは低いといえます。
難点とすると、知識がまったくない場合は、やはり情報収集、少しの勉強が必要なのと、テンプレートも専用ソフトもたくさんあるため、どれを使用するかで悩むこと、また有料ソフトを利用する場合、かなり高額であること、また自社作成にかかる時間などです。
管理する従業員数にもよりますが、少人数の運用であれば大きな問題はないでしょう。
専門家に依頼する場合…
専門家に依頼する場合は、社会保険労務士に依頼します。社会保険労務士とは、労務や年金のスペシャリストです。
元々は行政書士がそれらを担当していたのですが、行政書士から、特にその分野の専門家として派生したのが社会保険労務士です。 企業が運営していくうえで必要となる従業員の給与計算、労働基準監督署に提出する各種書類の作成などをしてくれます。
この場合のメリットとしては、時間の節約、各種ケースにおける助言や相談ができることです。知識が無い場合、非常に大きな助けになります。
逆に難点とすると、毎月それなりの費用がかかること、くらいです。この費用を捻出するのが難しい場合もあるでしょうが、専門家に任せておくことでいざという時の安心感が違います。どちらをとるかは、経営者の判断になります。
正しい知識をつけよう
給与明細と賃金台帳の違いについて、ご紹介いたしました。
経理、労務関係の業務に携わらなければ、なかなか賃金台帳に触れる機会は少ないかと思いますが、給与明細との違い、専門家に任せる場合など、読んでみて参考になれば幸いです。
また、経営側として従業員を雇用する場合は適切な給与明細、賃金台帳を作成して、なにかあったときにもすぐに対応できるようにしましょう。
初回公開日:2017年07月27日
記載されている内容は2017年07月27日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。